PKSHAのIPO 信託活用型有償ストックオプション

PKSHAは、機械学習技術等を利用したアルゴリズムの開発及びライセンス提供を行っている会社で、2017年9月22日にマザーズに上場しています。

PKSHAは、従業員等に対するインセンティブ・プランとして、通常のストック・オプションに加えて信託活用型有償ストックオプションを、上場直前期末に発行しています。

信託活用型有償ストックオプションとは、受託者に対して、発行会社が有償新株予約権を発行し、受託者はこれを引き受け、一定の条件を満たした時に発行会社の従業員等に交付する信託を利用したスキームです。

通常のストックオプションの場合、アーリーステージで付与を受けた人よりレイトステージで付与を受けた人の方が行使価額が高く不利になることが多く、モチベーションを低下させるおそれがあるという理由で、敬遠する経営者が少なからずいます。また、ストックオプションの発行日よりも後に入社した従業員には、そもそもストックオプションが付与されない、という場合もままあり、不公平感は否めません。

これに対し、信託活用型有償ストックオプションの場合、上場前の株価が低い段階で有償新株予約権を発行し、上場後の一定の時期に、その時点で在籍する従業員に対してこれが交付されるので、ストックオプションの発行日よりも後に入社した従業員等にも入社後の評価に基づき付与されるため、不公平感を減じることが可能です。

一般的な当該スキームの概要は次の通りです(松田良成・山田昌史、「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン(上)、旬刊商事法務No2042 62頁-63頁)。

① 委託者となるオーナーが、信託銀行と信託契約を締結し、金銭を信託する。

② 受託者たる信託銀行は、信託財産である金銭を、有償新株予約権の払込資金や税金の支払等に使用する。

③ 信託銀行は、信託契約に定められた受益者確定手続が完了し、将来の一時点における従業員等に有償新株予約権が交付されるまでの間、これを保管する。

④ 信託銀行は、信託契約に定められた受益者確定手続が開始された時点で、予め定めた条件に基づき、発行会社の従業員等の受益者を確定する。

⑤ 信託期間満了日をもって、受益者確定手続を完了した従業員等は信託受益権を取得する。

⑥ 信託受益権を取得した従業員は、信託期間の満了に伴い、ただちに有償ストックオプションが交付され、これに伴い、信託受益権は消滅する。

当該スキームは、税務において際立った特徴があります。その特徴は、有償新株予約権の税務上の特徴と法人課税信託の特徴を組み合わせたことから生じていますので、その2つを分けて説明します(以下税務に関する説明は、松田良成・山田昌史、「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン(下)、旬刊商事法務No2043 36頁-40頁に依拠しています)。

①有償新株予約権の税務

(1) 有償新株予約権は、時価で発行されるものなので、付与時に「収入」(所得税法36条二項)が認識されないため、課税の問題は生じない。

(2) 権利行使時においても、所得は実現していないため、課税は生じない。

(3) 権利行使によって得た株式の売却時において投資損益が実現し、譲渡所得課税を受ける。

非適格ストックオプションの場合には、行使時において、その時点における株式時価と行使価額との差額について、譲渡所得のように分離課税されることなく、給与所得等として総合課税の累進税率により課税されるのに比べ、税務上大きなメリットが得られます。付与時及び行使時に課税がなく、権利行使によって得た株式の売却時に譲渡所得課税を受けるという点に関し、適格ストックオプションも同様の取扱いになっていますが、適格ストックオプションの場合には、例えば権利行使者の権利行使価額の年間合計額が1200万円を超えないことといった税制適格要件が存在するのに対し、有償ストックオプションにはこのような制約はない、という優位性があります。

② 法人課税信託の税務

現に受益権を有する受益者またはみなし受益者が存しない信託は、法人課税信託として取り扱われます。当該スキームの場合、オーナーから信託銀行に対して金銭を信託した時点では、将来の一時点における従業員およびその従業員に付与される新株予約権の個数が未確定なため、「現に受益権を有する者」は存在せず、みなし受益者も存在しない場合には、法人課税信託となります。

(1) 信託設定時の課税関係

受益者等が存しない信託の受託者においては、無償による資産の譲受けに関して、受贈益として、当該譲受けがあった日の属する事業年度の益金の額に算入される(法人税法22条第二項)。

(2) 受益者等が現れるまでの信託期間中の課税関係

信託財産に帰せられる収益および費用は、信託ごとに受託者に帰属するものとして、受託者において法人税の課税を受ける(法人税法4条の六)。

(3) 受益者等が存しない信託において、受益者等が存することとなった場合の課税関係

受託者においては、法人課税信託に係る受託法人の解散があったものとされ、受託者は当該受益者に対しその信託財産に属する資産および負債のその直前の帳簿価額による引継ぎを受けたものとして、当該受託法人の各事業年度の所得の金額を計算する(法人税法64条の三第二項)。

受益者においては、「居住者が•••資産及び負債の引継ぎを受けたものとされた場合におけるその引継ぎにより生じた収益の額は、当該居住者のその引継ぎを受けた日の属する年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない」ものとされる(所得税法67条の三第一項)。

すなわり、受益者等が存しない信託においては、何ら実体的な経済的利益を得ることのない受託者に資産等が帰属したものとして、信託設定時および信託期間中に法人税が課せられる反面、経済的利益を享受するであろう受益者が現れた場合には資産等は簿価で引継がれ、受益者自身には課税が生じないという取扱いになる。

このように有償新株予約権の特徴と法人課税信託の特徴を税務上併せ持つことで、当該スキームにおいては、オーナーが金銭を信託した時点で信託銀行において法人税課税を受ける反面、有償新株予約権の付与時に課税はなく、有償新株予約権が信託されている期間においては法人税課税の対象となる収益が生じることは基本的に想定されず、有償新株予約権を従業員等に交付した場合にも、給与所得課税等の課税はなく、最終的に売却時に株式等譲渡益課税(分離課税)がなされるまでは課税を受けないことになります。

税務上は、当該スキームには際立った優位性があるのに対し、会計上は、2018年1月12日に新しく「実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」が交付されことにより、有償ストックオプションの取扱いが大きく変更になったことにより、当該スキームの会計上のメリットは実質的に消滅したと思われます。

以下、有償ストックオプションについての実務対応報告第36号の前と後の会計上の取扱いを説明します。

① 実務対応報告第36号以前の会計上の取扱い

新株予約権を時価発行し、時価相当額に設定された発行価額が現金で払い込まれた場合、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」に基づき、発行者である企業は、次のように会計処理します。

(1) 発行時

発行に伴う払込金額を、純資産の部に「新株予約権」として計上する。

(2) 権利行使時

新株予約権が行使され、新株が発行された場合には、当該新株予約権の発行に伴う払込金額と新株予約権の行使に伴う払込金額を、資本金又は資本準備金に振り替える。

(3) 失効時

新株予約権が行使されずに権利行使期間が満了し、当該新株予約権が失効したときは、当該失効に対応する額を失効が確定した会計期間の利益(原則として特別利益)として処理する。

② 実務対応報告第36号の会計処理

権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、これをストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとして会計処理します。具体的には次のとおりです。

【付与日から権利確定日まで】

(1) 権利確定条件付き有償新株予約権の付与に伴う従業員等の払込金額を純資産の部に新株予約権として計上する。

(2) 各会計期間における費用計上額として、権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から付与に伴う払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法に基づき、当期に発生したと認められる額を算定する。当該権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定する。

(3) 公正な評価単価は付与日において算定し、条件変更の場合を除き、その後は見直さない。権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価単価における算定技法は、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている算定技法を利用する。なお、失効の見込みは権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない

(4) 権利確定条件付き有償新株予約権の算定及びその見直しによる会計処理は次のとおり行う。

(ⅰ) 権利確定条件付き有償新株予約権数は、付与日において、付与された権利確定条件付き有償新株予約権数(以下「付与数」という。)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する。

(ⅱ) 付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合、これに伴い権利確定条件付き有償新株予約権数を見直す。権利確定条件付き有償新株予約権数を見直した場合、見直し後の権利確定条件付き有償新株予約権数に基づく公正な評価額から付与に伴う払込金額を差し引いた金額のうち、その期までに発生したと認められる金額と、これまでに費用計上した金額との差額を見直した期の損益として計上する。

(ⅲ) 権利確定日には、権利確定条件付き有償新株予約権数を実際に権利の確定した数に修正する。修正後の権利確定条件付き有償新株予約権数に基づく公正な評価額から付与に伴う払込金額を差し引いた金額のうち、その期までに発生したと認められる金額と、これまでに費用計上した金額との差額を権利確定日の属する期の損益として計上する。

(5) 新株予約権として計上した払込金額のうち、権利不確定による失効に対応する部分は利益として計上する。

【権利確定日後】

(1) 権利確定条件付き有償新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行した場合、新株予約権として計上した金額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える。

(2) 権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した金額のうち、当該失効に対応する部分を当該失効が確定した期の利益として計上する。

【権利確定日の判定】

(1) 勤務条件および業績条件が付されている場合

勤務条件および業績条件のうちいずれかを満たせば権利が確定するときは、当該いずれかの条件を満たした日を権利確定日とする。これらの条件のすべてを満たさないと権利が確定しないときは、これらすべての条件を満たした日を権利確定日とする。

(2) 業績条件のみ付されている場合

業績の達成または達成しないことが確定する日を権利確定日とする。

要するに実務対応報告第36号に従えば、権利確定条件がないものとして評価されたストックオプションの評価額のうち、払込金額(有償部分)を超える金額は、役務報酬として費用計上されるということです。実務対応報告第36号以前は、役務報酬として費用計上されることはなかったので、新しい会計基準によりそのメリットはふさがれることとなりました。

ところで、信託活用型有償ストックオプションは、実務対応報告第36号の射程外であるという考え方もあり得ます。というのは、実務対応報告2項に、

本実務対応報告は、概ね次の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権を対象とする、とした上で、

「企業は、従業員等を引受先として、新株予約権の募集事項(募集新株予約権の内容(行使価格、権利確定条件等を含む。)及び数、払込金額、割当日、払込期日等)を決議する。」

「募集新株予約権を引き受ける従業員等は、申込期日までに申し込む。」

としているところ、本スキームの場合、有償ストックオプションは、受託者たる信託銀行が引き受けることになるので、実務対応報告第36号の対象とならないとも考えられるからです。

しかし、当該実務対応報告15項に、

「本実務対応報告は、従業員等に対して第2 項に記載した権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引を対象としているが、取引の内容が第2 項(1)から(9)に記載された内容と大きく異ならない取引について本実務対応報告の対象となるかどうかを、実態に応じて適切に判断できるようにするため、第2 項において、「概ね次の内容で発行される」という表現を用いている。」

との記載があり、本スキームの最終的な受益者が従業員等であることに鑑みると、「概ね次の内容で発行される」と考えられるため、当該実務対応報告の適用時期である平成30年4月1日以後に付与された信託活用型有償ストックオプションは、実務対応報告第36号の対象となり、役務報酬等が費用計上されると考えられます。

と、ここまでが前置きで(長い前置きですみません)、漸くPKSHAの事例になります。PKSHAの信託活用型有償ストックオプションの概要が、登記簿謄本に次のように記載されています。

株式分割前で、

新株予約権の対象となる株式の数は、877株

有償新株予約権の価額は、330円

行使価額は、300,000円

とありますね。

 

平成29年9月期から平成31年9月期までのいずれかの期に、営業利益が280百万円を超過した場合に50%が行使可能、400百万円を超過した場合には100%が行使可能という行使条件が付されています。この行使条件があるために、新株予約権の価値は、株価(300,000円)の0.1%まで引き下げられるのです。

上述した、信託設定の際に大株主が金銭を贈与し、受託者が受贈益課税を受ける、という点に抵抗を感じた方も、この新株予約権の価額を見ると合点が行くと思います。有償部分が極めて僅少になるように行使条件が設定されているのです。ですから、受贈益課税といってもたいした金額にはならないのです。

有価証券届出書を見ると、信託の受託者が信託銀行ではなく、顧問税理士になっています。そのため株主の状況の5位に、この顧問税理士が登場していて、ここだけ見るとぎょっとしますが、この方の持分は、すべて受託者として引き受けた有償ストックオプションです。

本スキームの概要は、有価証券届出書の「第4提出会社の状況」に記載があります。

委託者2名は、ファウンダー&経営者です。

東証一部又は二部上場まで想定し、信託期間満了日を3つに分けることで、新規採用人材へのインセンティブの付与も期待できます。

本有償ストックオプションの発行日は、平成28年7月22日なので、実務対応報告第36号の適用対象とはならず、報酬費用として計上せずにすみそうです。

おわり

 

 

 

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