ウォンテッドリーのIPOは、ココロオドルか オドラないか

ウォンテッドリーは、ビジネスSNS「Wantedly」を運営している会社です。

公開価格は1,000円(引受価格は900円)、PER30.4倍(2018年8月期会社予想EPSによる)という水準での株式公開となりました。

公募50,000株はすべて自己株式処分によるもので、調達金額はわずか4千万円。本社オフィス増床時の内装費の一部に充当されるとのことです。2017年8月末現在、現金預金が4億6千万円あるので、この資金が必要で上場したわけではないのは明らかです。

売出80,000株はVCとして参画しているサイバーエージェント。その他の売出はありません。

2015年9月に実行された直前のファイナンス時の株価が1,800円(株式分割による希薄化考慮後)だったので、このIPOは50%に及ぶ大幅なダウンラウンドだったことになります。

このIPOは、調達金額の少なさ、ダウンラウンドであったこと、ストックオプション等従業員へのインセンティブがほとんどないこと等を理由に巷の評判は必ずしも芳しくありませんが、全く的外れな指摘かと思います。

1,000円というバリュエーションが想定内のものであったかどうかはわかりませんが、ウォンテッドリーのIPOには最低限の公募・売出で済ませたいという明確な意思を感じます。というのも、マザーズの上場基準で必要とされる最低限の公募・売出しか行っていないと思われるからです。

マザーズの場合、形式基準として、上場に際し最低500単位の公募を行わなければならないと規定されていますが、ウォンテッドリーはその最低限の500単位の公募しか行っていません。

また、同じく形式基準として、流通株式の数が上場株券等の25%以上となることと規定されています。ここでいう流通株式数は、発行済株式総数から流通性の乏しい株券等の数を合算した数を減じて算定します。

流通性の乏しい株式とは、以下の者が所有する株式をいいます。

・申請会社

・申請会社の役員、監査役、執行役

・申請会社の役員の配偶者及び二等親内の血族

・申請会社の役員、役員の配偶者及び二等親内の血族により総株主の議決権の過半数が保有されている会社

・申請会社の関係会社及びその役員

・有価証券の数の10%以上を所有する者又は組合

ウォンテッドリーの場合、これに該当するのは社長と取締役。両者の持分を合計するとかろうじて75%を下回ります。これでセーフかと思いきや問題があります。サイバーエージェントのIPO前の持株比率は10%を超えているので、これも流通性の乏しい株式となり、そうなると合計ではるかに75%を上回ってしまうのです。

これが、サイバーエージェントの売出の理由と思われます。売出後のサイバーエージェントの持株比率は9.8%。ぎりぎり流通性の乏しい株式から外れます。サイバーエージェントの取得簿価は380円(株式分割後の希薄化考慮後)なので、900円で売出しに応じても一応利益は出ます。お願いして売出に応じてもらったのかもしれません。

つまり、ウォンテッドリーの公募・売出は、マザーズ上場の形式基準を満たすためだけに行われたもので、資金調達やキャピタルゲインを得ることを目的としたものではなかったということです。

従って、調達資金が少ないというのは、もともとこのIPOがそこを目的としていないので的外れな指摘と言えるし、ダウンラウンドと言ってもこの程度の公募(しかも自己株処分)では希薄化の影響は極めて限定的です。

さきほども言いましたが、社長の想定通りのIPOであったかどうかはわかりません。ただ、何があってもこのタイミングで上場することは決めていたのでしょう。

上場ゴールの会社は、公開価格が思っていたよりも低いと上場時期を延期することを選択しがちです。しかし、一度タイミングを逃すと二度とチャンスは巡ってこない、というのもまた真実です。

その意味で、ウォンテッドリーは上場してからことをなす、上場スタートの会社なのかもしれません。

これから一部上場を目指すのか、通貨となった株式を使ってM&Aを志向していくのかわかりませんが、楽しみではあります。少しだけココロオドル気もします。

というわけで、次回はウォンテッドリーの資本政策を詳解します。

乞うご期待!

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